石鹸の秘密について技術者目線で語ってみる【3】


脂肪酸石鹸について、いろいろ誤解があるようなので、それを修正する目的で、さらっと書くつもりが、まさかのシリーズ化。

さて、前回は、日本石鹸洗剤工業会のウェブサイト(http://jsda.org/w/03_shiki/a_kaimen02.html)から拝借した、分子構造

このマッチ棒みたいな図を参考にしながら、化学式をついに出してしまったわけですが、脂肪酸石鹸はこんな感じの化学式です。

これに対して、石鹸カスは
CH3-CH2-・・-COO-Ca-OOC-・・-CH2-CH3
みたいな構造で、この構造になると、石鹸は水に溶けなくなります。
というお話をさせていただきました。前置き長くてすみません。

さて、
CH3-CH2-・・-COO-Ca-OOC-・・-CH2-CH3
という構造は
親油基ー親水基ー親油基という構造になっています。
つまり、水に溶ける部分が、油に溶ける部分に挟まれてしまっているのです。そのため、石鹸カスは水には溶けないのです。

すごいシンプルな話なんですが、この話、実はびっくりするほど知られていません。
研究所に配属された若手の研究員なんかにこの話をすると、へえ~と驚かれることが多いものです。
ちなみに、営業さんとか店員さんにこの話をするときは、今回のブログのように、長い長い説明を要します。
みんな、中学校の化学の時間を大事にしようね。
で、本題に戻って、この水に溶けない構造を形作るという点が、脂肪酸石鹸の、ものすごく大きな特徴となっています。
まず、洗い上がりの感触の話。

石鹸で顔や体を洗うと、洗い上がりに、キュッキュッとした感触を得られると思います。スッキリ綺麗に洗いあがった、という感触。
これが、石鹸での洗浄の特徴です。その他の界面活性剤だと、どうしても、ぬるぬるした感触がなかなか消えず、すすぎに時間がかかってしまいます。
逆に、このぬるぬるした感じが保湿成分が肌に残っている証拠と思って、あまり洗い流さない方も多くいます(これは、大間違い。肌を乾燥させるので、絶対にしてはいけません)

最近の製品では、わざと石鹸の成分を配合して、この「キュッキュッ」とした感じをださせる処方も多くあります。
先日のビオレの泡洗顔なんかもそうですね。ポンプフォーマーが目詰まりする危険を押して、石鹸を入れてくるあたりが、さすが花王さんて感じでした(そして、予防線の貼り方もさすが)。
すっきり洗えて気持ちいい、というこの感触が、実は皮膚の上に残った石鹸カスによってもたらされているというと、かなりショックを受ける方が多いものです。

実際、カルシウム成分とかを含まない、いわゆる超純水なんかで顔を洗うと、石鹸は、普通の界面活性剤の洗剤よりよっぽどぬるぬるするのだとか。
私は未経験なのですが、研究職の方では、実験されたことのある人が多いようです。
つまり、肌の上に石鹸カスがこびりつき、これが、「キュッキュッ」という感触をもたらしているということ。石鹸カスが出ないと、この感触が得られません。
逆に、カルシウム分の多すぎる水質では、脂肪酸石鹸単体の洗顔料は、顔にカスが残った感じが強く出ます。

これは、私は経験済みで、初めてパリに行った時、脂肪酸石鹸成分だけで作った石鹸で顔を洗った時の衝撃を今でも覚えています。
肌がごわごわして、明らかに何か残っている感じ。
すすぎの途中から、肌のすべすべ感はなく、もはや顔を洗っているのか、顔になにか塗りつけているのか、わからない感じで、それはそれは気持ちの悪いものでした。
結局、ゴマージュパック(マッサージで、顔の古い角質なんかを落とすクリームみたいなもの)を買いに走った記憶があります。

この話を友人たちにすると、ゴマージュパックって、あんた、マダムかよ、とかからかわれたものですが、西洋のスキンケアラインの理由を理解した経験でした(この話は、いずれまた)。
まあ、その時、日本の水質の良さを実感したとも言えます。
日本でも、例えば温泉なんかでは、こうしたことが起こる場合があるようです。
どんどん話が逸れてすみません。とにかく、この石鹸カスが肌に残るというのが、石鹸の最大の特徴だと思うのです。
そしてそれは、感触が良いということにとどまりません。
石鹸以外の界面活性剤の最大の問題は、皮膚に残留した場合に、不活性化しない、という点があります。

界面活性剤は、すすぎ方にもよりますが、多少は肌に残ってしまいます。肌に残った界面活性剤成分は、通常は石鹸カスのような不活性な状態になりません。
そして、これらの成分が肌に残ると、肌をじわじわと侵食します(という表現は、あまり正確ではないかもしれませんが、わかりやすいので使わせてください)。
その結果、肌のバリア機能が破壊され、肌が乾燥肌に傾いたりします。
アミノ酸系界面活性剤は、特に肌との親和性が高いので残りやすく、すすぎをきちんとしないと、どんどん蓄積する傾向があります。

実は、あまり知られていませんが、アミノ酸系の界面活性剤の大きな特徴というか、欠点の一つとして、肌に残留しやすく、蓄積しやすいという点があります。

アミノ酸系界面活性剤は、脂を洗い流す力が弱く、その点では乾燥肌の人に向いています。
しかし、肌に蓄積して、じわじわ肌のバリア機能を壊してしまうというもまた事実。
アミノ酸系の界面活性剤は親水基を二個持っていたりするものが多いので、不活性化しにくく、この傾向が高いと言われています。
洗い上がりがぬるぬるするので、これが保湿感とおもって、あまり洗い流さない方が多いのも原因かもしれません。

もともと乾燥肌の方は、あまりすすぐと肌が乾燥するということを知っているので、なおさらこの傾向が強いように思いますが、これは本当に危険なこと。
あまり表に出てこない情報ですが、アミノ酸系の界面活性剤を使用した肌洗浄の実験結果で、長期使用では逆に肌が乾燥し、刺激が上がるというデータを見たことがあります。
メーカーの社内資料で公表されていませんが、実はそんなデータもあったりします。

脂肪酸石鹸は、脱脂力は高いのですが、肌に残った成分が、あまり悪さをしないという点で、敏感肌や乾燥肌の人には適していると、私は思っています。
もっとも、アルカリに弱い人もいますし、実際に乾燥肌の方は、身体を洗った後に保湿ケアをするので、アミノ酸系界面活性剤などが少量残っていても問題はないのかもしれません。

ということで、他にもいろいろ石鹸の秘密(?)はあるのですが、またいずれ書きたいと思います。


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